警察署で伯父を引き取ったあと、霊柩車が向かった先は、伯父の家ではなく葬儀社でした。ひとり暮らしの家で亡くなった伯父には、「住み慣れた家に帰って、ゆっくりお別れ」という時間はありませんでした。
孤独死の葬儀は、普通の葬儀と段取りが違います。亡くなった日ではなく「見つかった日」から始まり、警察の検案が終わるまで日程が決められず、葬儀社だけは引き取りの連絡より先に決めておく必要があります。私たち家族は、それを誰にも教わらないまま、ひとつずつ突きつけられる形で知りました。
この記事では、伯父を見送った遺族として経験した部分と、「身寄りがない場合はどうなるのか」「引き取りを拒否したらどうなるのか」という、私自身は経験していないけれど調べた部分を、分けて書きます。経験していないことを経験したようには書きません。
この記事でわかること
- 孤独死の葬儀が、普通の葬儀と違うところ(日程・お別れの形・段取りの順番)
- 身寄りがない人が亡くなった場合、葬儀と遺骨はどうなるか
- 遺体の引き取りを拒否した場合に起きること・費用とお金の注意点
- 葬儀のお金が出せないときに使える制度
孤独死の葬儀は、検案が終わってから始まる
病院で亡くなった場合、葬儀の準備はその日のうちに始められます。孤独死の場合は違います。遺体はまず警察署(または警察が委託した安置施設)へ運ばれ、医師が死因を確認する「検案」が終わるまで、家族のもとへは帰ってきません。発見から引き取りまでの流れは孤独死の遺体はどうなる?警察の検案から引き取りまでの流れに書きました。
つまり、通夜や葬儀の日取りは自分たちでは決められません。警察から「お引き渡しできます」と連絡が来て、初めて動き出せます。当日に引き取れることもあれば、数日かかることもあります。
ひとつだけ、順番が逆になるものがあります。葬儀社です。警察署からの引き取りには葬儀社の搬送車(霊柩車)が必要なので、日程も分からないうちに、先に葬儀社を決めておくことになります。深い悲しみの中で業者を選ぶのは本当に重い作業ですが、ここで決めた1社とそのまま葬儀まで進むことが多いので、できれば電話の段階で2〜3社に料金を聞いて比べてください。葬儀の形式ごとの費用相場や、見積もりで見ておきたいところは家族葬の流れと費用の記事にまとめています。
お別れの形は、発見までの時間で変わることがある
書きにくいことですが、大事なことなので書きます。孤独死では、発見までにかかった時間によって、お顔を見てのお別れが難しい場合があります。そうした事情から、通夜を行わずに火葬だけを行う「直葬(火葬式)」が選ばれることも少なくありません。
直葬を選ぶことに、後ろめたさを感じる方もいると思います。でも、お別れの形に正解はありません。状況がそれを選ばせることもあれば、お金の事情が選ばせることもあります。どんな形であっても、見送ると決めて警察署まで足を運んだ時点で、あなたは故人のために動いています。形式の違いに、気持ちの優劣はありません。
「どんなお別れができるか」は、遺体の状態を実際に確認している葬儀社が一番よく分かっています。同じ状況のご遺族を何度も見てきていますから、率直に聞いて大丈夫です。
私たちの場合|通夜と葬儀ができた
伯父は、亡くなってから2日後に見つかりました。発見が早かったこともあり、翌日には警察署で引き取ることができ、霊柩車で葬儀社へ移り、通夜と葬儀を行うことができました。
正直に書くと、あのときの私に「いい葬儀にしよう」と考える余裕はありませんでした。悲しみはそのままに、決めることだけが次々に来ました。それでも、お線香をあげて、顔を見て、見送ることができた。あれから時間が経つほど、あのお別れの時間があってよかったと思うようになりました。伯父の甥として、最後に並んで見送れたことは、いまの私を支えているもののひとつです。
だからこそ、これを読んでいるあなたが「見送るかどうか」を迷っているなら、できる範囲の小さな形でも、見送る選択肢があることは伝えたいです。ただし、それができない事情がある方がいることも、調べる中で知りました。ここからは、その場合の話を書きます。
身寄りがない場合、葬儀はどうなるのか
ここからは、私が経験したことではなく、調べて分かったことです。
引き取る家族や親族がいない場合、火葬は亡くなった場所の市町村が行います。墓地埋葬法(墓地、埋葬等に関する法律)という法律の第9条で、埋葬や火葬を行う人がいないとき、または分からないときは、死亡地の市町村長が行うと決められているからです。この場合、通夜や告別式といった儀式は基本的に行われず、火葬のみになります。
火葬後の遺骨は、自治体が骨つぼなどで一定期間保管し、引き取り手が現れなければ、市営霊園の納骨堂などに他の方の遺骨と一緒に納められます(合葬)。いわゆる「無縁仏」です。共同通信の集計報道によると、2018年度に全国20の政令指定都市が受け入れた引き取り手のない遺骨は計8,287柱で、5年前の1.4倍に増えています。また警察庁の統計では、2024年に65歳以上の高齢者58,044人が自宅でひとりで亡くなっています。誰にも起こり得ることとして、行政の仕組みが用意されている、ということです。
「自分が死んだら誰が見送るのか」という不安からこの記事に辿り着いた方がいたら、生前にできる備えを身辺整理の記事に書いています。自治体によっては、葬儀の生前契約や緊急連絡先を登録しておける「終活登録」の制度もあります。
引き取りを拒否したい方へ|拒否はできる。ただし3つ知っておいてほしい
疎遠だった家族や、関係を絶っていた親族の死を、警察からの電話で突然知らされる。孤独死では、そういう連絡の届き方がめずらしくありません。遺体の引き取りは法律上の義務ではないので、拒否することはできます。そのうえで、調べて分かった注意点が3つあります。
① 拒否した場合、火葬は自治体が行う
引き取り手がいない場合と同じく、市町村が火葬を行い、遺骨は一定期間の保管を経て合葬されます。合葬されたあとで「やっぱり引き取りたい」と思っても、遺骨を個別に取り出すことはできなくなります。迷いが少しでもあるなら、保管期間や引き取りの期限を自治体に確認しておいてください。
② 費用の請求が来ることがある
自治体が行った火葬の費用は、まず故人が残したお金(遺留金)から充てられます。それで足りない場合、相続人や扶養義務のあった親族に請求が来ることがあります。どの法律に基づいてどう請求されるかは、自治体の処理の仕方や故人の状況によって違います。「引き取りを拒否すれば、お金も一切関わらずに済む」とは限らない、ということだけ覚えておいて、具体的な扱いは連絡を受けた窓口で確認してください。
③ 引き取りの拒否と、相続は別の手続き
引き取りを拒否しても、相続人であることは変わりません。故人に借金があれば、何もしないと相続の対象になります。相続放棄をするなら、相続を知ったときから原則3ヶ月以内の手続きが必要です。遺品のすべてが問題になるわけではありませんが、故人のお金や財産的な価値のあるものに手をつけると、相続を承認したと見なされて放棄が認められなくなるおそれがあります。このあたりは身内の借金がどうなるかの記事と相続放棄の記事に書きましたが、判断は事案ごとに違うので、迷いがあるなら司法書士や弁護士に早めに相談してください。孤独死で突然相続人になった場合に特有の注意点は孤独死で相続人になったら?に詳しくまとめました。
最後にひとつ。引き取りを拒否する選択を、私は責められません。そこに至るまでのあいだに、あなたと故人の間に何があったのかを、他人は知らないからです。拒否を選んだとしても、それは冷たさではなく、あなたがこれまで生きてきた事情の結果です。
葬儀のお金が出せないとき|使える制度
「見送りたい気持ちはあるが、お金がない」という方のために、調べた範囲で制度を2つ書いておきます。
- 葬祭扶助(生活保護法):火葬を中心とした最低限の葬儀(直葬に近い形)の費用を自治体が負担する制度です。葬儀を行う方が生活保護を受けている場合や、故人が受給者で葬儀を行う人がいない場合など、適用には条件があります。また葬儀をしたあとの申請は認められないのが原則なので、当てはまりそうなら必ず葬儀の前に福祉事務所へ相談してください。
- 葬祭費・埋葬料:故人が国民健康保険や後期高齢者医療制度に入っていた場合、葬儀を行った人に数万円(金額は自治体や加入先で異なります)が支給されます。申請しないともらえず、期限は2年です。
このほか、検案料や搬送料など、葬儀の前の「警察まわり」でかかるお金については孤独死の警察費用はいくら?に分けて書いています。
よくある質問
Q. 身寄りのない人が孤独死した場合、葬儀は誰が行いますか?
引き取る家族や親族がいない場合、墓地埋葬法第9条に基づいて、死亡地の市町村が火葬を行います。通夜や告別式は基本的に行われず、火葬のみです。遺骨は自治体が一定期間保管したのち、引き取り手が現れなければ合葬されます。私が調べた共同通信の集計では、こうした遺骨は20の政令指定都市だけで年8,000柱を超えています。
Q. 遺体の引き取りを拒否したら、費用を請求されますか?
請求されることがあります。自治体が行った火葬の費用は、まず故人の遺留金から充てられ、不足分は相続人や扶養義務のあった親族に請求される場合があると法律で定められています。また、引き取りを拒否しても相続人であることは変わらないため、故人に借金がある場合は相続放棄(原則3ヶ月以内)の検討も必要です。私は経験していない手続きなので、迷いがある方は司法書士や弁護士への相談をおすすめします。
Q. 孤独死の場合、葬儀はいつ行えますか?
警察の検案が終わり、遺体を引き取ってからになります。検案には当日から数日までの幅があり、日程は自分たちでは決められません。私の伯父の場合は、発見の翌日に引き取ることができ、そこから通夜と葬儀に進みました。引き取りには葬儀社の搬送車が必要なので、連絡を待つあいだに葬儀社を決めておくことになります。
まとめ|どんな形でも、決めたのはあなた
- 孤独死の葬儀は、警察の検案後に始まる。日程は決められず、葬儀社だけ先に決めておく
- 発見までの時間によっては、直葬(火葬式)が選ばれることもある。形式に優劣はない
- 身寄りがない場合は市町村が火葬を行い、遺骨は保管期間を経て合葬される
- 引き取り拒否はできる。ただし費用請求の可能性と、相続(放棄は原則3ヶ月)は別の手続き
- お金が出せないときは、葬儀の前に葬祭扶助の相談を。葬祭費・埋葬料は申請期限2年
※本記事は遺族として経験したことと調べたことの記録であり、法的なアドバイスではありません。制度の運用は自治体によって違いがあるため、実際の判断は窓口や専門家に確認してください。
伯父を亡くした経緯と、その後の半年については自死遺族ブログ|伯父を亡くした半年の記録に書いています。
