「実家 売却 後悔」。
夜中にそんな言葉で検索して、この記事にたどり着いた方がいるかもしれません。私も同じ言葉を、何度も検索してきました。売って後悔するのが怖い。でも、このまま持ち続けるのも怖い。その間で動けずにいる人が、たぶんこの言葉で検索しているのだと思います。
私は2025年の冬、伯父を自死で亡くしました。伯父が一人で暮らしていたのは、母が生まれ育った家——母の実家です。相続したのは母ですが、その家をどう処分するかを調べて考える役割は、甥である私が引き受けています。そして正直に書くと、私はまだ売っていません。査定すら取っていません。半年かけて「売る後悔」と「売らない後悔」の両方を調べ続けて、それでもまだ決められずにいる側の人間です。
だからこの記事は、「売れば後悔しない」とも「売らないほうがいい」とも言いません。売って後悔した人・売らずに後悔した人、それぞれにどんな後悔があるのかを、決断の手前にいる当事者として調べた記録です。
私がまだ売れずにいる理由(短く)
気持ちの部分は、別の記事に詳しく書きました。ここでは短くだけ。
この家には、夏に遊んだプールの記憶も、いまも飾られたままの五月人形や雛人形も、大黒柱に刻まれた身長の線もあります。家そのものが家族の記録媒体になっている。だから手放したくない——その気持ちは、いまも変わりません。
関連記事:実家の売却が寂しい・つらい|身長を刻んだ柱の家を、まだ手放せずにいる私の話
ただ、この記事で向き合いたいのはその気持ちではなく、もう一段現実的な不安のほうです。「売って後悔するのか」「売らずに後悔するのか」、どちらの後悔が大きいのかを、決める前に知っておきたい。それが、検索窓に「後悔」と打ち込んだときの私の本音でした。
「売って後悔した」人に多い後悔の類型
まず断っておきます。私はまだ売っていないので、これは私の体験談ではありません。相続不動産の売却で後悔したという話として、一般によく語られる類型を、調べた範囲で整理します。架空の知り合いの話としては書きません。
調べていくと、「売ったこと自体」を後悔している人は、実はそれほど多くないように感じました。後悔の多くは、売り方・進め方のほうに集まっています。代表的なのは次の3つです。
- 安く、急いで売ってしまった……手続きや管理の負担から早く解放されたくて、相場を調べないまま、最初に声をかけた1社の提示額で決めてしまう。あとから「もっと高く売れたはずだった」と知って後悔する、という話はよく見かけます。1社だけの査定額が高いのか安いのか、比べる相手がいないと判断できません。
- 遺品や片付けを急ぎすぎた……空にしてから売ろうとして、写真や手紙、形見になりそうなものまで一気に処分してしまう。家が売れて手元に残ったものを見て、「あれも捨ててしまった」と気づく。家は取り戻せなくても、思い出の品はもう少し時間をかけて選べたはずだった、という後悔です。
- 親族との相談が足りなかった……自分一人の判断で進めてしまい、あとから他の親族が「相談してほしかった」「あの家には自分にも思い入れがあった」と感じてしまう。相続や売却そのものより、人間関係のしこりが残ることのほうがつらい、という声もあります。
この3つに共通しているのは、「売ったこと」ではなく「急いで売ったこと」への後悔だ、という点でした。逆に言えば、相場を知り、品物を選び、家族と話す時間さえ確保できれば、避けられる後悔も多いということだと思います。
片付けのほうで言うと、私自身が「捨ててはいけないもの」を調べてまとめた記録があります。先に手続きで必要な書類だけ抜いておけば、片付けを急いでも取り返しのつく範囲が広がります。
関連記事:遺品整理で捨ててはいけないもの一覧|手続きで本当に必要になった書類
「売らずに後悔した」人に多い後悔の類型
では、売らずに持ち続けた場合はどうか。私がいま立っている、こちら側の話です。こちらにも、調べていくと避けがたい後悔の型がありました。
- 維持費と管理の負担が、ずっと続く……人が住んでいなくても、固定資産税、火災保険、たまの修繕、そして草刈りや見回りはなくなりません。私の場合、いまの住まいから実家までドアtoドアで7時間以上かかるため、見回りは車で30分ほどの距離に住む母たちに頼っています。その母も、もう若くありません。「いつか」と先送りにしているあいだ、負担だけが静かに積み上がっていきます。
- 管理が行き届かないと、税金が一気に上がる場合がある……住宅が建っている土地は「住宅用地の特例」で固定資産税が軽くなっていますが、管理されないまま放置され、自治体から「特定空家」に指定されて改善の勧告を受けると、この特例の対象から外れることがあります。その場合、土地の固定資産税は最大でおよそ6倍になり得ます(あくまで制度上の上限の話で、すべての空き家が即この扱いになるわけではありません。詳細はお住まいの自治体や専門家への確認が必要です)。持っているだけで負担が増える可能性がある、という点は知っておくべきだと感じました。
- 資産価値は、待つほど下がっていきやすい……築年数の古い木造家屋は、時間とともに傷み、買い手から見た価値も下がっていくのが一般的です。「もう少し気持ちが落ち着いてから」と待っているあいだに、売れたはずの値段で売れなくなっていく、という後悔もあります。私の伯父の家も築50年の木造です。
- 近隣リスクが生まれる……草木が茂り、人の出入りのない家は、景観・衛生・防犯のうえで近隣の負担になっていきます。思い出の入れ物だった家が誰かの迷惑になっていくのは、いちばん悲しい結末のような気がします。
放置した空き家が具体的にどうなっていくかは、当事者として調べたことを別の記事にまとめています。
関連記事:相続した実家の空き家、放置するとどうなる?自死遺族が処分を決めるまで
こうして並べてみると、答えがないことがよく分かります。売っても、売らなくても、何かは後悔として残る。どちらかが正解で、どちらかが間違い、という話ではありませんでした。残るものの種類が違うだけです。
後悔を減らすために、私が実際にやっている範囲
「どちらでも後悔は残る」と分かったうえで、では何ができるのか。私が実際にやっている、あるいはやろうとしている順番を、ありのまま書きます。背伸びはしません。私がまだやれていないことは「やれていない」と書きます。
① 遺品と気持ちの区切りを、先につける
売る・売らないを決める前に、まず手をつけられたのは遺品のほうでした。といっても、伯父が生前にかなり整理してくれていたので、私が向き合っているのは「いつ始めるか」「何を残すか」という意味の部分です。期限のある書類を先に確保し、写真や人形のような心の品は急がない。この順番にしてから、少し気持ちが楽になりました。
② 相場を「知る」。ただし、売ると決めることではない
これが、私がいま手前で止まっているところです。私はまだ査定を取っていません。解体費が土地の評価額を上回ることや、古家付き土地として売る方法があることは調べて知りました。でも、申し込みの一歩はまだ踏み出せていません。
査定額を知ってしまうと、あの家が「数字」になってしまう気がして、そこで手が止まる。同じ立場の方なら、分かってもらえるかもしれません。
それでも最近、自分にこう言い聞かせています。相場を知ることと、売ると決めることは、別の作業だ。査定はあくまで「いま市場でどう評価されるか」という情報で、知ったうえで売らない選択をしてもいい。むしろ情報がないまま迷い続けるほうが、「売って後悔した人」の安売りにも、「売らずに後悔した人」の値下がりにも、両方近づいていく気がします。後悔を減らすための判断材料、という位置づけです。
③ 家族(相続したのは母)と話す
相続したのは母なので、最後に決めるのは私ではありません。私の役割は、調べたことを母に分かるかたちで渡して、一緒に考えることだと思っています。「売って後悔した人」の類型に親族との相談不足があったのを見て、ここは飛ばしてはいけないと感じました。
関連記事:一人っ子の実家売却はどうする?|相続人がひとりだった家の、楽な面と重い面
④ 期限を、自分たちで決めておく
いちばん怖いのは、決めないまま時間だけが過ぎることです。だから「いつまでに方向だけは決める」という、自分たちのなかの締め切りを置くようにしています。守れないこともあります。それでも、無期限で先送りにするよりはましだと思っています。
事故物件・訳あり不動産にあたる場合
もうひとつ、私のように家の中で亡くなった事情のある家(心理的瑕疵のある物件)の場合は、一般の売却とは別の論点があります。告知義務のことや、買取という選択肢のことです。同じことを調べて止まっている方もいると思うので、別の記事にまとめてあります。
関連記事:事故物件(心理的瑕疵物件)の売却を調べた記録
関連記事:事故物件の買取という選択肢について
「相場を知ってから迷う」でいい
ここまで書いてきて、私がたどり着いている答えは一つだけです。後悔を完全になくす道はない。でも、情報を持ったうえで迷うほうが、知らないまま流されるよりいい。
「売って後悔した人」の多くは、相場を知らずに急いだ人でした。「売らずに後悔した人」の多くは、負担と値下がりを見ないふりをした人でした。どちらの後悔も、相場という事実を一度知っておくことで、少しだけ小さくできる気がしています。売ると決める必要はありません。知ってから、また迷えばいい。
私自身が次の一歩にしようとしているのが、この「査定だけ取る」です。一社だけだと高いか安いか判断できないので、無料で複数社に査定を依頼できる窓口を、判断材料として載せておきます。
査定額は1社だけだと、それが高いのか安いのか分かりません。「売って後悔した人」の安売りを避けるという意味では、もう1社を加えて比べておくと判断材料が増えます。比較用の窓口も載せておきます。
まとめ|どちらを選んでも、何かは残る
実家を売って後悔する人もいれば、売らずに後悔する人もいます。私が半年調べて分かったのは、「後悔しない正解」はどこにもない、ということでした。売れば思い出の入れ物を失い、売らなければ負担と値下がりと近隣リスクを抱え続ける。どちらにも、残るものがあります。
それでも、と思います。何も知らないまま流されて後悔するより、事実を持ったうえで迷って決めたほうが、あとから自分を責めずに済む。少なくとも私は、そう思って、いま査定の一歩の手前に立っています。
急がなくていい。でも、止まったままとは違う。相場だけ、情報だけ、一歩だけ。同じように決められずにいる方が、自分のペースで判断材料をそろえられますように。
※この記事は、自死で伯父を亡くした遺族が、専門家ではなく当事者として体験・調査したことをまとめています。固定資産税の特例や「特定空家」の扱い、相続・売却のご判断は個別の事情によって異なります。実際のご判断は、不動産会社・税理士・司法書士などの専門家や各窓口に必ずご確認ください。
